座談会記録 |
第1回: 車の電子化の歴史 |
第2回: 車電子制御放談 |
第3回: 趣味の言語学談義 |
2003年12月24日
Internet World Plazaにて
聞き手 | 今回は2回目ですね。クリスマスイブですがご苦労様です。今日は特に新しい技術について聞かせていただこうと思います。車関係が主になると思いますが。 現在お考えになっていることはどのようなことでしょう。 |
M氏 | そうですね。私はいろいろと考えを巡らすことが好きです。車の技術は進化してきて、ハイブリッド式になり、いまに純粋な電気自動車が主流になるでしょう。またIT化の波が車に押し寄せていますね。 でも基本的なところで引っ掛かっている部分があります。いわゆる技術のbottleneck部分です。 |
聞き手 | 例えばどのようなところですか。 |
M氏 | 車には角度情報が欲しいところがいくつかあります。例えばスロットルバルブの開度です。このスロットルバルブはエンジンへの空気量を調節する重要な弁です。このバルブの高精度な角度情報がエンジン制御で要求されます。 |
聞き手 | 今はどのように測っているのでしょうか。 |
M氏 | そうですね。一言で言えばラジオのボリュームと同じものですね。これは抵抗体の上をブラシが擦っています。自動車用のものはラジオのボリュームと比べて遥かに耐久性に優れたものですが原理は同じです。 |
聞き手 | ということは、磨耗するということですね。 |
M氏 | その通りです。磨耗で特性が変化してきます。また耐候性で問題がある。ハイテクの中にローテクが混じっているようなものです。従って非接触タイプが求められてきました。 |
聞き手 | 例えばどのような方式のものですか。 |
M氏 | 光式のデジタルエンコーダがありますが、これは使いづらいし、絶対位置を出すものは高価です。その他Hallセンサ式、電磁式などがあるが精度が出ないし、安定度で問題がある。結局、現在一番いいのは原始的なボリューム式なんですね。 |
聞き手 | それは問題ですね。それで何かグッドアイデアでもありますか。 |
M氏 | まだ検証はしていないがアイデアだけはあります。このポンチ絵です。光式です。 |
聞き手 | もっと説明してください。 |
M氏 | これは一種のボリュームですが非接触式ボリュームというべきものです。図の抵抗体は従来のボリュームの抵抗体に相当します。しかしその上に光導電膜と透明導電膜を形成します。 光導電膜とは光が当たった部分だけ導体になって当たらないところは不導体の特性を持たせます。 透明導電膜は光を通す導電体です。 この構造では光の当たったところだけ光導電膜は導電性を持つので、その部分の抵抗体の電位を透明導電膜に伝えます。ここから電圧を得れば従来のボリュームと同じような特性が得られます。 |
聞き手 | なるほど原理上はうまく行きますね。でも実際の商品化ではどこが難しそうですか。 |
M氏 | そうですね。第1は膜の形成ですね。厚膜か薄膜で行なうことになるでしょうけれども、プロセスが成立するか検討が必要です。また膜相互の相性の問題もありますね。それに光導電膜でいいものがあるかどうかです。 いずれにしろ、材料やプロセスの開発が必要になりそうに考えています。 |
聞き手 | 分かりました。でも、うまく行けば採用が広がりそうですね。 その次はどのような技術をお考えでしょうか。 |
M氏 | インジェクタです。自動車の燃料を噴射する電磁弁です。 |
聞き手 | どのような技術内容でしょうか。 |
M氏 | そうですね。インジェクタの応答性に関してです。現在のインジェクタは応答性が一口で言えば悪いです。従って、その性能範囲の動作で我慢せざるを得ません。最新のcommon rail式のDieselでは分割噴射(multiple injection)などのために特に高応答性が求められますが苦労しています。 Dieselではmainの噴射のほか、pilot噴射やpost噴射をしてガラガラ音を無くすとか技術的な工夫を行なって欠点を解消していきつつあります。更に最近はpilot、pre、main、after、postと5回に分けるものさえあります。 |
聞き手 | 現在のインジェクタ高速化はどうやっていますか。 |
M氏 | 開弁のために特別な電気的駆動をすることや、方式を変えてピエゾ式(電歪式)のものも出てきています。特殊な手段を講じているのです。 |
聞き手 | では、従来インジェクタを高速にできない原因はどこにあるのですか。 |
M氏 | そうですね。一番の原因は渦電流によるものです。現在のインジェクタの構造に起因するのですよ。インジェクタは簡単に言えば電磁石で鉄片を引き付けてそれによって弁を開きます。閉じるときは電気を切ってバネで閉弁させるのです。原理はこのように簡単です。 |
聞き手 | どこが性能に災いするのですか。 |
M氏 | 例えばOFFの時を考えてみましょう。インジェクタには800ターンほど巻かれたソレノイドコイルがあって、約1Aほどの電流で開弁を保持します。この電流を切るとインジェクタのソレノイドの回りの構造体に渦電流が流れるのです。すなわちone turnショート電流です。この電流は閉弁させまいとする力を与えます。従ってこの渦電流が減衰するまで開弁し続けます。このようにN:1巻線比のトランスと解釈できます。 渦電流の大きさの初期値は I1×N で、Nは巻数です。数値を入れると800Aにもなるのです。そして時定数L2/R2で減衰します。R2は非常に小さいのです。 |
聞き手 | 渦電流を減らす手はないのですか。 |
M氏 | そうですね。磁性材料を高電気抵抗のものを選ぶことや、電流が流れに難くするために縦にスリットを入れることです。でも限界があって画期的に良くなることはありません。 |
聞き手 | なるほどソレノイド式には限界があるのですね。その渦電流は観察できるのですか。 |
M氏 | 間接的にですが出来ます。インジェクタのコイルは鉄の中に閉じ込められています。従ってleakage inductanceは非常に少なくて、ほとんど全て鎖交すると考えていいと思います。 従って1次電流を切ったとき1次側にflyback電圧が出ますが、これは2次側の跳ね返りと見ていいのです。すなわち V1spike=I2×R2×N になります。 このようにV1spikeはI2に対応しています。他は定数ですね。 |
聞き手 | なるほど。それでOFFの遅延が目視できますね。 |
M氏 | その通りです。これで目視できます。 |
聞き手 | OFFは分かりましたがON時はどうなりますか。 |
M氏 | 同じことです。今度はONさせまいとする渦電流が流れます。 |
聞き手 | 分かりました。で、対策案とはどのようなものでしょうか。 |
M氏 | この図に示すのがその案です。何のことはない、スピーカーと同じmoving coil式ですよ。 |
聞き手 | 見てすぐ分かります。実現には障害がありますか。 |
M氏 | そうですね。この図にも書きましたがコイルが動くので線の引き出しに一工夫いりますね。更には永久磁石を使うので、ガソリン中の磁性ゴミが気になります。フィルタがいるかもしれません。 でもこの構成で画期的な応答性が期待できます。閉弁も電磁的に出来るのです。スプリングは緩くてOKとなります。 |
聞き手 | なるほど。でも開発には時間が必要ですね。 |
M氏 | そうですね。でも課題は構造ですからその気になれば一気ですね。 |
聞き手 | はい。では最後の話題です。車の将来の夢をお聞かせください。 |
M氏 | 車と環境が大きなテーマですね。化石燃料もなくなっていきます。そういう時代が近づいています。もっとも30年前のScienceという雑誌には21世紀初頭には化石燃料の需給は逼迫すると書かれていましたが、そんな様子は幸い今はありません。それは省エネ努力と新規油田の発見によるのですが限界があります。やはり遠からず苦難の時代はやってきます。 現在は運用時のエネルギーを云々されていますが、生産から廃棄まで含めた生涯CO2排出量、生涯エネルギー消費量が重要なんでしょうね。 |
聞き手 | 前置きは分かりましたが、どのようなアイデアがおありでしょうか。 |
M氏 | 現在はハイブリッドカーが増えてきており、将来は電気自動車が大多数を占めることになるでしょうね。これの電力供給のやり方です。 |
聞き手 | 具体的には? |
M氏 | そうですね。給電を道路から出来ないかと夢を抱きます。特に高速道路の走行時は道路からの給電ができればいいですね。地下鉄の電車みたいに道路に電線を這わせるやり方はあるが、無接触式で出来ないだろうか。地面に線輪を埋め、走る車に給電する。 この図にあるような夢です。 |
聞き手 | なるほど。コイルを対向させて電力を伝えるのですね。 |
M氏 | そうです。対向するコイル(線輪)から給電します。そこだけを付勢(energise)します。 |
聞き手 | なるほどこうすれば充電不要ですね。 |
M氏 | そうです。高速道路を下りれば通常の走行です。高速道路では同時にX-by-wireを行ないます。これで自動運転をするわけです。寝て目的地へ行けます。X-by-wireというのは飛行機のfly-by-wireからでた言葉です。wireとは電線のことで、機械的接続を断って電気的にactuatorを動かすものです。Xはwild cardです。 |
聞き手 | なるほど。電気自動車になると給電の方法が多様化しそうですね。夢が膨らみますね。 |
M氏 | そうですね。子や孫の世代は様変わりするかもしれません。 |
聞き手 | まだいろいろあろうと思いますが、次回に回しましょう。本日はどうもありがとうどざいました。 |
M氏 | どういたしまして。次回を期待しています。ではメリークリスマス。 |