9K金フルート
14K金フルート
楽器 | 音質 (平均値) |
Brahms | Bizet |
9K金 | 2.16 | ++++ | +++++- |
24K金 | 2.38 | +++-- | +++---- |
白金 | 2.60 | +---- | ++++--- |
銀メッキ | 2.66 | +++++-- | +++++---- |
白金メッキ | 2.79 | +++- | ++-- |
14K金 | 2.79 | +++--- | ++ |
総銀 | 2.92 | +-- | ++---- |
参考文献
[1] J. Backus, JASA Vol.36, p. 1881-1887, (1964)
[2] J. Backus, T.C. Hundley, JASA Vol.39, p. 936-945, (1966)
[3] J. W. Coltman, JASA Vol.49, p. 520-523, (1971)
[4] J. Backus, The Acoustical Foundations of Music, p. 208, Norton, New York (1969)
表2 供試楽器の音質の主観的評価
音質の評価値は非常に狭い範囲を示した:すべての楽器の値は2.16と2.92の間にあると確認できる。音質の評価に加え、被験者たちは、「好き」には "+"を、「好きではない」には " - "を自由に使用させた。 次の表には演奏音楽に応じた聴衆の好みを示している。
(1) 各楽器のダイナミックレンジ
白金フルートは広いダイナミックレンジを演奏者にもたらすとは一般的な固定観念である。
図5は、全演奏者の平均値と、それぞれ楽器の低、中、高の4種の単一音を示す。
最大ダイナミックレンジの楽器(白金フルート=16.14dB)と最小のダイナミックレンジの楽器(14K金フルート=14.57dB)の差はわずか1.5 dBである。この差は試験演奏者数の増加とともにゼロになる可能性は排除できない。
実験の設定
銀メッキ、総銀、9Kの金、14Kの金、24Kの金、銀下地白金メッキ、総白金のフルートを無響室で7人のプロのフルート奏者(ウィーン·フィルハーモニー管弦楽団のオーケストラを含む、ウィーンのオーケストラの団員)が演奏した。
録音した音声データ:
(1) 3オクターブ(C4-C7)に渡るクロマチックスケール。吹きやすいforteとする。
(2) 単1音のA4、F5、D6とBb6で fffまでのcrescendo、pppまでのdecrescendo。
(3) Carmen (Bizet)からの有名なソロとJ. Brahmsの交響曲第1番のソロ。
序説
壁材料がフルートの音質を決定する際に果たす役割は、長い間議論の対象となっている。 1960年代でJ. Backus作成[1,2]の人工的に吹き込む管楽器の持続的な音の実験室での測定は、壁材料がかなりの効果があるという一般的証拠を示さなかった。しかし、演奏者や楽器メーカーは楽器を人工的に吹いたという事実で、これらの結果を受け入れなかった。
そのため、J. W. Coltmanは、3種の異なる材料(銀、銅、木)で作られ、壁厚の異なるフルートで実験を行なった。
それらのフルートは、著者自身と4名の異なるプロフルーティストが演奏した[3]。実験は27名の観察者での聴き取り実験で達成した。
統計分析の結果は次であった。
「経験豊富な聴衆や訓練を受けた演奏者がフルート間の区別ができるとの証拠は見出されなかった。・・・それらフルート間の唯一の差異は管体の壁材料の性質と厚みだけである。材料と厚みの変化が著しい時でさえもである。」
それにもかかわらず、楽器メーカー、演奏者、聴衆は壁材料の性質は楽器の音に間違いなく影響を与えると主張し続けるのである。
おそらく、フルート奏者の観点からColtmanの実験には汚点があるのである。それは実験フルートは特別に製作されたものであり、キー操作がなかったということである。
壁材料とフルートの音
総銀フルート
銀メッキフルート
きっぱりとこの議論を終了させるために(Backusが指摘した[4]ように、これらの討論は多分初期旧石器時代に議論の場を開始しており、人の大腿骨で作るフルートが竹の管からのものより遥かに良いと主張したのである。)、我々は壁材料だけが異なり、誰もが購入できるムラマツ製の7本の同一タイプのフルートを選んだ。(図1)
結果
演奏者と材料の発生音への影響の良好な推定から演奏されたクロマチックスケールの音圧実効値RMSを作成した。図4が、7種の試験楽器での7名の演奏者の例である。
演奏者間の差異が思ったより見られるが、楽器間の差異は非常に小さい。
これはフルート演奏者は楽器とは独立にかなりの程度に「良い音」の自己の主観的想像力を実現でき得ることを意味している。
各演奏者の平均スペクトルは対照的な状況を示している。
(差は7dBに達する。図8参照)
ダイナミックレンジが相対値であるので、表1には各単1音の絶対値の情報を示す。
図4 演奏されたクロマチックスケールの音圧レベル(7名の演奏者が7本のフルートを演奏)
The Institute of Music Acoustics (Wiener Klangstil) からも面白い論文が報告されています。これは音楽音響研究所で、それはウィーン国立音楽大学にある研究所です。
この論文は Ms Renate Linortner (レナーテ・リノルトナー女史)の卒業論文をもとにしていると説明されています。
この論文はColtman博士の論文の欠陥を補ったものと述べています。
私はフルートの管体材料は音色に影響しないと考えていてColtman論文に共鳴するのですが、それとは別に高価なフルートほど作りが良くて素晴らしい音が出ると信じていました。
この論文はそれを否定する衝撃的な内容です。それも、異分野研究者のColtman博士と異なり、音楽の中心地からの発信は意味があります。
しかし、2001年3月の発表から10年以上経過した現在も状況は変わっていないようです。この世界は非常に保守的のようです。
彼女は次のURLに紹介されていて、現在は美しいプロフルート奏者です。
http://www.lauenenconcerts.com/index.php/renate-linortner-flute
この論文は次のURLのもので、これは実際の論文の簡約版です。ドイツ語の complete PDF version はこのURLからダウンロードできます。
http://iwk.mdw.ac.at/?page_id=97
訳注:
グラフ横軸は左から
9K金 14K金 24K金 総銀 銀メッキ 白金 銀下地白金メッキ
白金メッキ
図5 各楽器のダイナミックレンジ (4種の単1音、7名の演奏者)
銀メッキ
総銀
9K金
14K金
24K金
白金
白金フルート
白金メッキフルート
24K金フルート
訳注:
供試楽器に関しては complete version の38ページから詳しく記述されています。
結論
経験豊富なプロのフルート奏者と聴衆、そして7種の異なる材料からムラマツが製作した1種のモデルでの試験は、壁材料が楽器の音色あるいはダイナミックレンジに感知できるほどの効果があるという証拠を示さなかった。
フルート奏者とフルートメーカーが使用する共通の固定観念は、まさに「固定観念」であると露呈されたのである。
和訳に疑問点があれば見直します。アドバイスがあればご連絡ください。 → ここ
『フルート材料の音色への影響』を別ページに記載しているのでここをクリックしてください。
『フルート価格の検討』を別ページに記載しているのでここをクリックしてください。
また、コルトマン博士の書簡の和訳をしたのでここをクリックしてください。
(訳注:英語の元のURLがFRAME内に見えています。そのページの中ほどにフルート音が例として聴けるようになっています。)
図2 Bizet, Carmen
図3 Brahms, Symphony No.1
図7 7本のフルートの平均スペクトル
その音響材料を分析し、それを7名のテスト演奏者を含む15名の経験豊富なプロのフルート奏者を聴き取りテストのために準備した。追加の意見調査は、音、応答性への材料の影響の問題について行われ、111名に対して壁材料とフルートの音色との間に関係があるかどうかが問われた。
(3) 音色
音色の状況も似ている。音響スペクトルは多様な演奏者間で非常に異なる。しかし、一人の演奏者が異なった楽器を演奏する音のスペクトルを分析すると、少しだけ測定可能であるが認識できない差異とわかる。この事実は、聴き取り試験で顕著に実証された。
図7は0-16 kHzの周波数全範囲にわたり材料に起因する音の最大の差は0.5dB未満であると示している。
その図は、7本のライン(各楽器ごとにライン1本)を示している。おのおののラインは、ひとつの楽器ですべての演奏者から得られたスペクトルの平滑化した包絡線(36の係数を有するケプストラム)を表している。このようにして、個々の演奏者の影響は排除される。
(訳注:ケプストラムは次を参考にしてください。難解です。デジタル信号処理用語集
ケプストラム )
表1 各単1音のダイナミックレンジ絶対値:7名の演奏者の平均値
pp | ff | |
A4 | 69-80 dB | 82-92 dB |
F5 | 66-83 dB | 81-96 dB |
D6 | 72-86 dB | 88-100 dB |
Bb6 | 72-95 dB | 85-107 dB |
(2) 各演奏者のダイナミックレンジ
演奏者個々のダイナミックレンジに注目すれば状況は全く異なる。得られたダイナミックレンジは7dBと19.6dBの間にある。
図6は、各演奏者、すべての楽器、A4、F5、D6、Bb6の音の平均値を示している。得られた最大と最小には4倍の開きがある。
試験Bで、我々は別のやり方を試みた。
被験者たちは、すべての演奏者たちが演奏する一つの楽器を聴いた。被験者たちには、音色を記述し、楽器/材料を推測させた。次に、すべての演奏者が演奏する次の楽器を聴いた。以下同様である。
唯一つの楽器(総銀フルート)は正確に同定されたが、他の総ての楽器は完璧に混乱した。 9 K金フルートは主に総銀フルートと混同し、14K金フルートは白金の楽器と混同し、銀メッキ楽器は総ての楽器(それぞれの楽器で少なくとも1人の被験者はそれは銀メッキ楽器と考えたが)と混同した。
各楽器の音色の記述は5つのカテゴリーに分けた
1. 肯定的有表現
2. 否定的表現
3. 総ての人から指定される表現
4. 相反する表現
5. 音質の評価(1 =非常に良い、5 =悪い)
予想されるように、すべての楽器にとり最も重要な指定された表現は「相反する表現」であった。
例えば、各楽器の音色が同時に「明 bright」と「暗 dark」、「豊か full」と「か細い thin」、「朗々 round」と「甲高い sharp」と評価された。
図1 供試楽器
要約
管楽器の材料が音色に与える影響の議論は終ることがない。音響技術者はほとんど無視できる程度の影響と話す一方で、演奏者達は、材料が発生音色に大きく影響を与えると確信している。この報告者は7種の異なるフルート材料と110人の被験者で行なわれた実験に関するもので、楽器の価格は、11万円から770万円の間のものである。(訳注:当時の為替レートで円換算した。)
二重盲検法(訳注:試験者と被試験者の双方に真実情報を与えない試験法: 次のURLに説明があります。http://ja.wikipedia.org/wiki/二重盲検法 )での試験および統計分析は、そのことに関し演奏者たちのとリスナーたちの固定観念的考えや使用材料の非認識性を示した。音解析は、演奏者に起因する演奏音の音レベルと音色に大きな差異があると指摘し、材料起因の音色ではやや測定可能であるものの知覚できる差(<0.5 dB)はないと指摘した。
Renate Linortner (レナーテ・リノルトナー)
銀、金、白金 ― そしてそのフルートの音
(4) 聴き取り試験
2種類の試験とした。
試験AにおいてCDに録音のCarmenのソロとBrahmsのソロを最初に総ての楽器で演奏者1に聴かせ、次に演奏者2に総ての楽器を聞かせ、以下同様にした。被験者たちに楽器を推測させた。
結果は興味深いもので、楽器はどれも正しく識別されなかった。
最良値は24K金フルートで、被験者のたった22%が24K金フルートと識別した。
ところが、間違った推測はもっと大きな値で、34%が9K金フルートを白金フルートと考えた。(わずか6.8%が正しく識別した。)そして32%が14K金フルートを白金フルートと考えた。(11.3%が正しかった。)
壁材料とフルートの音
図8 音響の差異。7名の演奏者が同じ1本の楽器を演奏した時の平均スペクトル
図6 各演奏者の各々のダイナミックレンジ(総てのフルートで4種の単1音)